管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。
主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)
コラムを通じて色々なことを学べるはずです!
第25回は「和音の転回形は『トランスフォーマー』 」。
前半は「転回形(セブンス)の転回形」について学ぶ回です。
後半のエッセイ的な部分は「初期段階での合奏の組み立て方」の続編です。
さっそく読んでみましょう!
合奏するためのスコアの読み方(その19)「合奏と楽曲分析のための和声の超基礎(7)」
お話しした「セブンス」について自分のものにできましたか?
仕組みは難しいものではありませんので、前回コラムのまとめなどを読み返してもらえたら理解も確かなものになると思います。
今回はそのセブンスをもう少し深掘りする回。
次回と次々回の3回にわたって深掘りすることになると思いますがこれで一通りセブンスの話題に別れを告げ次のテーマへと旅を続けていきます。
今回のトピックです。
【今回のメニュー】
・セブンスの転回形について
【メニュー詳細】
・セブンスの4種類の転回形の種類と形を知る
・和音の各転回形の性格や特徴について知る。実際の作品の使用例あり。
3和音に「転回形」があったように、4和音(セブンス)にも転回形があります。
和音の転回形とは和音の構成音の「配置換え」のことで、和声の根本に変化はないのですが、その配置換えによって少しだけ響きが変化することで性格が変化するものです。
かつて「トランスフォーマー」というテレビアニメがありました。皆さんも知っていますか?
二足歩行のロボットが変形し自動車になって活躍するアニメなのですが、和音の転回形はまさにその「トランスフォーム」です。
3和音の転回形には「第1転回形」と「第2転回形」がありました。
3つの音で構成されているので根音が最低音に配置される「基本形」、3音が最低音に配置される「第1転回形」、5音が最低音に配置される「第2転回形」の3種があります。
4和音(セブンス)の場合は4つの音でできているので、その転回形のヴァリエーションは一つ増えて「基本形」と「3つの転回形」があります。
トランスフォーマーに例えると・・・
・基本形→ロボット
・第1転回形→自動車
・第2転回形→船
・第3転回形→飛行機
(注・僕の知っているアニメのトランスフォーマーでは基本的にロボットから自動車に変形するだけで、船や飛行機には変形していきませんでした。その後のシリーズではどうなっているかは未調査。)
3和音はロボット→自動車→船までトランスフォームできますが、4和音はロボット→自動車→船→飛行機までトランスフォームできると覚えましょう。
それではセブンスの4和音がどのようにトランスフォームしていくのかをみてみましょう。
まずは基本を押さえましょう!これを押さえたらほぼセブンスの転回形については攻略完了です。
・基本形・・・根音が最低音(バス音)に配置(最低音から上に3度、5度、7度)
・第1転回形・・・3音が最低音に配置(最低音から上に3度、5度、6度)
・第2転回形・・・5音が最低音に配置(最低音から上に3度、4度、6度)
・第3転回形・・・7音が最低音に配置(最低音から2度、4度、6度)
実際の吹奏楽の曲ではコントラバスやチューバ、ティンパニなどの最低音グループに和音の中の第何音が配置されているか?というのが転回形の種類を決める唯一の要素です。
それらの転回形には日本の楽典的に名前がつけられています。
3和音の転回形も第1転回形=「6の和音」、第2転回形=「4-6の和音」と言います。
最低音にある音からの各音の度数で呼び名があるのですが、特にその名を知らなくても支障はありません。
もちろんセブンスの転回形にも日本の楽典的な呼び名があります。
和音の最低音からみて根音と7音が何度の関係かで名称が決まっています。
これもまた特に覚えなくても支障はないので無理に頭に入れなくても大丈夫です。
■セブンスの第1転回形=根音が6度、7音が5度上にあるので・・・5-6の和音(ゴロクのワオン)
性格と特徴・・・主にフレーズの途中に登場する。メジャーの場合はマイナーの、マイナーの場合はメジャーの響きが比較的強く出るので、色彩の変化を和音進行のなかで付ける事ができる。
覚え方・・・あの人は話すフレーズの途中で有名人の語録(5-6)を引用することが多い。
■セブンスの第2転回形=根音が4度、7音が3度上にあるので・・・3-4の和音(サンシのワオン)
性格と特徴・・・扱いにくいコードだが、おしゃれ感があるのでハーモニー進行に彩りを添えることができる。
覚え方・・・三枝(サンシ)は扱いにくいがオシャレなやつだ! 注・「三枝」とは落語家の桂文枝師匠が長く名乗っていた名前で、僕の世代は桂文枝より桂三枝の方がしっくりきます。
■セブンスの第3転回形=根音が2度上、7音が基準になる最低音なので・・・2の和音(ニのワオン)
性格と特徴・・・ベースラインをスムーズに運ぶのに役に立つ、潤滑油的コード。
覚え方・・・スムーズに音を運べて「ニッ(2)」とする作曲家。
それぞれの転回形を楽譜上で見るとこのような配置になります。
実際の曲ではこのように使われています。
曲はベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」第2楽章冒頭部分です。
とても有名な曲ですので皆さんも聞いたことがあると思います。
赤い色で囲まれたところが和音の転回形です。
※ベートーヴェン「ピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13より 第2楽章」(ユニヴァーサル社刊)より引用
次回はいよいよ「セブンスの本丸」とも言える「属7の和音」についてたっぷり深掘りします。
☆今日のまとめ
・和音の転回形とは「音の配置換え」で、和音がトランスフォームすること。
・3和音には2種類の、4和音(セブンス)には3種類の転回和音がある。
・セブンスの転回和音の第1転回形は「5-6」、第2転回形は「3-4」、第3転回形は「2」の和音と日本の楽典では名称がつけられている。
それらは最低音から数えて7音と根音が何度上にあるのかを表している。
【ミニコーナー】合奏の時に気にして欲しいこと(第7回)
本番までの合奏の組み立て方~初期段階編(その2)
は初期段階の合奏の大まかな組み立て方や、その目的についてお話ししました。
今回は初期段階の合奏でしていきたいことをもう少し詳しく整理してみましょう!
1・「目的」から「やる必要があること」を見つけ出す
この場合の「目的」とは初期の合奏の段階での「目的」のことです。
初期合奏の段階は3幕構成で言うと「設定(セットアップ)」のパートになるので、これから本番まで取り組んでいく作品について全員がイメージを共有するのが第1の目的です。
セットアップに必要な事柄にはどのようなものがあるでしょうか?
セットアップに必要な要素はたくさんありますが、いくつか例示してみます。
それが映画やドラマなどに例えるとどうなるのかも合わせて例示してみます。
・楽曲の雰囲気や物語について(作曲者の生い立ちや国民性、その曲が書かれた時代などの歴史的背景など)→物語の設定(どんな物語が語られるのか)
・楽曲の大きな形式(調性やテンポ)→登場人物が物語を展開するいくつかの異なる「場」
・楽曲の小さな形式(メロディの構成、フレーズなど)→登場人物が物語を展開する「一場面」
・代表的なメロディやモチーフ(動機)はどのようなものか→各登場人物のキャラクター設定
・重要なリズムパターンはどのようなものだろうか→物語の根底に流れている思想や哲学
このほかにも多くの要素でできている音楽ですが、とりあえずはこれらのことを「セットアップ」のための情報として挙げます。
これを元にして指揮者はスコアを読み、それらのセットアップ項目がどのようになっているかを事前に勉強し、スコアで情報を得るのが難しい部分については関連書などを調べたりしながら合奏に備える必要があります。
その際には是非とも今までのコラムを活用して欲しいと思います。「何をすべきか」を理解し、指揮者が準備や勉強をしている量や質に比例して、音楽は良くなり合奏は楽しく充実したものになるでしょう。
2・「合奏で合わせられること」を分類し、比較的簡単なことから始める
合奏で練習できることは全て以下の4つの「基本カテゴリー」に分類することができます。
1・音の長短・・・リズム、音価、テンポなど
2・音の高低・・・ユニゾン、各音のピッチ、2音間の音程、和音など
3・音の強弱・・・ダイナミクス、音量の増減の統一、各楽器のバランス、和音やユニゾンのバランスなど
4・音色・・・楽曲のイメージやテンポ感にあったサウンド、オーケストラ全体としての魅力あるサウンドづくり、スコアに指定された楽器によって描き出される「音色のキャラクター」づけなど
合奏で人前に立つと「あれこれやらなくてはいけない事が多すぎる!」と途方に暮れてしまうことは多いと思います。
「あれもやりたい!これもやらなきゃ!」と脳内は大騒ぎになると思いますが、一旦落ち着いてください。
合奏で出来ることは上記の4つの基本カテゴリーに分類できます。
そのカテゴリーを一つずつ整理していけば何も怖くはありません。
合奏がうまくいかず、時間の無駄に思える合奏は指揮者がこのような基本カテゴリーについての意識が希薄な合奏計画(計画とは言えないノープランな合奏)をしている事が多いはずです。
3・最初の段階では「ワンイシュー」で攻める
初期段階の合奏で、僕は上記の4つのカテゴリーを1から順番に合奏を進めていきます。
その理由としては番号が進むにつれて指揮者の耳や奏者の理解が難しい分野になっていくからです。
最初から難しい分野に取り組んで袋小路に入るより、比較的指揮者や奏者が取り組みやすい部分から合奏を始めていきましょう。
音楽には「リズム・メロディ・ハーモニー」という3要素があると聞いた事があるかもしれません。
実際にはその3要素以外にも様々な要素ででききているからこそ音楽は魅力的になりますし、演奏する人によって色々な表現が可能なことが最大の魅力ですが、この「音楽の3要素」は大切です。
この3要素が絡み合うことで音楽ができているのですが、合奏ではこの「絡みあった糸」を一度分解してから編み直すことはとても大切です。
特に初期の合奏ではメンバーも曲のことがよく理解できてはいませんので、合奏するときは一度に多くのことをするのではなく、今日の合奏においての「大きなテーマ」を決めてその「ワンイシュー(一つの論点)」を合奏の中心に据えて進めていくようにしています。
例えば・・・「今日はリズムにこだわる!」「今日はユニゾンにこだわる!」「今日は音価にこだわる!」「今日はダイナミクスにこだわる!」などです。
一つの大きな目的を合奏に設定することで、メンバーにも「今日のミッション」をはっきり理解してもらうことができますし、「登るべき山はどこか?」を明確に出来ることは本番に向けた合奏をするなかでとても大切になってくると考えています。
ぜひ皆さんも、これらのことを実践してみてください!
次回も引き続き初期合奏の進め方のヒントをお話ししたいと思います。次回もお楽しみに!
文:岡田友弘
※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。
以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。
それでは次回をお楽しみに!
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岡田友弘氏プロフィール
写真:井村重人
1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。
これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。
彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。
日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。
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